お米の成分とおいしさとの関係
茶碗に装ったご飯で食べるときは、「コシヒカリ」に代表される粘りの強い、軟らかいのが好まれるでしょう。カレーライスには、粘りの弱いお米が好まれるかもしれません。お米の美味しさは、食べる人の嗜好やお米の用途によって変わります。
美味しいお米は、炊き上げたときに光沢があり、ほのかな香りがあって、噛みしめるとわずかな甘みを呈し、旨みがあって口全体に心地よい食感を感じるものと表現されています(米の美味しさの科学)。
毎日、毎回食べても飽きることのない、主食としてのお米、その美味しさを、お米の成分との関係から、調べてみよう。 |
デンプン
お米の主成分はデンプンです。デンプンは、ぶどう糖が直鎖状につながったアミロースと、木の枝状に分かれてつながったアミロペクチンの2種で構成されています。
山形県農林水産部稲作指針より作成
デンプンがアミロペクチンのみで、アミロースが含まれていない米がもち米です。うるち米にはアミロース含量が16~23%含まれていますが、その含量は品種・登熟期間の気温などにより異なります。
一般に、アミロース含量の少ない米は美味しいとされ、「コシヒカリ」はその代表的な品種です。これに対し、アミロース含量の高い米は、ご飯が硬く、粘りも弱く、北海道の古い品種に多かったようです。ちなみに、今の北海道品種「きらら397号」や「ほしのゆめ」などは、アミロース含量が低いのを選抜して育成されたのです。
アミロースの含量は、品種の特性によって大きく影響されますが、稲が登熟する期間(出穂~刈取り)の気温もまた影響します。登熟時に気温が高くなれば、アミロース含量は低くなり、逆に、気温が低くなればアミロース含量は高くなります。
たとえば、「コシヒカリ」を北陸、東北、北海道で栽培したとすれば(北海道、東北地方北部でのコシヒカリ作付けは無理であるが)、登熟気温は北陸が最も高く、次いで、東北、北海道の順に低くなるでしょう。アミロース含量は逆に、北陸でもっとも低く、東北・北海道の順に高くなるでしょう。
自然のままに任せておけば、東北、北海道の米は永遠にアミロース含量は高いままです。北海道や東北で、アミロースの低い品種育成に多大な努力を払ったのも、これを克服することにあったのです。
もちろん、「コシヒカリ」にしても「はえぬき」にしても、その特性からみた適地があります。適地適作が、美味しい米づくりの基本です。
タンパク質
タンパク質は、米の大切な栄養分の一つです。私たちは、一日に必要なタンパク質の約18%を、米から摂取しています。栄養が十分でなかった時代、米タンパク含有量を高め、栄養改善に役立てようと、品種の改良や、窒素肥料の多施用などの研究がなされました。
山形県農林水産部稲作指針より作成
ところが、米のタンパク含有量が高まると、食味は低下するということが明らかになりました。とくに、窒素肥料を多く施用する、それも出穂前後に施用すると、タンパク含有量が増加して、米の食味は大きく低下します。ご飯の「粘り」が低下し、「硬さ」が増加するためです。
米のタンパク質は、その溶解性の違いにより、アルブミン(純水可溶性)、グロブリン(食塩水可溶性)、プロラミン(アルコール可溶性)、グルテリン(アルカリ可溶性)に分類されます。
米のタンパク含有量のうち、5~7割は人間が消化できる良質のグルテリンですが、1~2割は消化不良なプロラミンです。プロラミンは、ご飯のパサパサ感のもとになり、出穂後に窒素肥料を施用すると増加するといわれています(堀野俊郎)。
米のタンパク含有量は、出穂後の気温によっても変動します。一般に、登熟期間が高気温で経過すると、タンパク含有量は高まります。気温が高いと、米粒の発達は促進しますが、それが早くストップするために、玄米は小さくなり、相対的にタンパク含有量は高まります。反対に、出穂後の気温が低く経過しても、タンパク含有量は高まります。玄米のタンパク含有量が7%前後になる最適気温は、出穂後40日間の平均気温で22~23℃です。
山形県農林水産部稲作指針より作成
米のおいしさに関係する成分のうち、アミロース含量は品種の特性や登熟期間の気温に影響されますが、タンパク含有量は栽培方法、とくに窒素肥料の施用方法に強く影響されます。
山形県農林水産部稲作指針より作成
このため、おいしい米を作るには窒素肥料を減らして、玄米タンパク含有量を低くする栽培方法が主流になっています。一方、過度の減肥栽培は、近年の猛暑に適応できず、品質を著しく低下させているのでないか、との指摘もなされています。
無機質
米に含まれる無機元素としては、もみではケイ素(Si)がもっとも多いく、玄米や精米ではリン(P)が最も多く、カリウム(K),マグネシウム(Mg)、ケイ素なども多く含まれています。
これらの元素と食味との関係では、玄米のマグネシウムとカリウムの化学当量比とご飯の粘りと相関があり、その比が大きいほど粘りがあるとの報告があります(堀野俊郎)。
脂肪酸
米に含まれている脂肪は、主として胚芽、糊紛層に多く含まれ、脂肪分解酵素(リパーゼなど)によってグリセリンと脂肪酸とに分解されます。
脂肪酸の生成量は、貯蔵中に増加するため、貯蔵中の品質の劣化の程度を表す重要な指標になっています。これが増加すると、ご飯の香り、味の低下がみられ、粘りにも影響します。
2013年7月30日 18:38