山形の米づくりの歩み 稲品種と栽培の系譜より(9)
Ⅷ うまい米「氏か育ちか」
「氏より育ち」という格言がある。これは、氏素性の良さよりも、子供から大人になる間の環境や教育が人柄に強く影響することを言ったものだ。この格言が米のおいしさにもあてはまるだろうか。極端な例を言えば、まずい米の品種もうまい米の品種と同様の栽培環境や栽培法の条件を与えてやれば、うまい米並みにうまくなるかであるが、答えは否である。まずい品種はどんな良い条件を与えたとしても、育ちによって100点にすることは不可能といってよい。もともとうまい品種にはかなわない。米のうまさは、「育ちより氏」なのだ。それを端的に示すのがおいしい米品種を代表するコシヒカリとササニシキの系譜である。
米の生産調整がスタートした1971年(昭46)以降、米生産はそれまでの多収品種から良食味品種へと大きく転換した。コシヒカリとササニシキの急拡大である。米業界からは、両品種は東西の横綱とも呼ばれたほどである。西の横綱コシヒカリは福島県以南の広い地域で栽培され、そのうまさは飯の粘りにある。一方、東の横綱ササニシキは東北地方の宮城・山形県を中心に栽培され、そのうまさの源は淡泊な舌触りと味にあった。 両品種の系譜をたどってみよう。Ⅱの系譜図を再掲しよう。そこには共通した在来品種を見ることができる。在来品種とは、明治時代中期まで栽培され続けた品種で、交配などで大きな改良が加えられていないので、その後改良の加えられた品種と対比して呼ばれている。現代のうまい米品種の系譜をたどっていくと、数多くの在来品種に行き着くが、それらの中でも代表的な在来品種を挙げると、亀の尾、愛国、旭=朝日、銀坊主、上州、撰一の六つに集約される。品種改良で、これら6品種が特においしい米品種を生み出したことになる。なかでも、うまい米品種には山形県の亀の尾、近畿地方で普及した旭からの血が多く流れていることが系譜図からは読み取れる。
コシヒカリのうまさは旭と亀の尾にたどることができる。昭和の初期、関西と東北地方のそれぞれの代表的品種であった旭から農林8号を経て農林22号へ、亀の尾から陸羽132号を経て農林1号へとうまさが伝えられ、そして、両者が合わさってコシヒカリのうまさができあがったのでないか。ササニシキの系譜をみると、母方のハツニシキはコシヒカリと同様に農林22号と農林1号との組み合わせから育成された姉妹品種で、父方のササシグレの片親には農林8号が使われ、もう片方の親の東北24号のまたその親に亀の尾が使われている。したがって、ササニシキも系譜からしてうまい米の血をタップリ吸い込んだ品種といえる。
さて、系譜からみたうまい米の血の流れとは異なる論文も発表されている19)。本論によれば、亀の尾の食味に関する米の理化学特性の粗タンパク質含有率、アミロ-ス含有率そして食味官能値はいずれも劣っており、コシヒカリのおいしさは陸羽132号、農林1号、農林22号に由来するのでないかとの推察している。さらに、東20)も、高タンパクの性質を持つ系譜として、森多早生-農林1号-ハツニシキを上げている。130年前に創選された亀の尾をはじめ旧品種の遺伝的特性が現在まで引き継がれているかどうかは確かめようもない。ここは品種改良にかけた育種家への畏敬の念とロマンに与しよう。 ところで、山形県の極良食味品種「つや姫」は「コシヒカリ」の血を引き、おいしさはトップクラスであるが、立毛の姿は「コシヒカリ」とはまるで異なる。「コシヒカリ」は丈が長くたおやかで倒れやすい姿に対し、「つや姫」は対照的に短くずんぐり。姫らしくない形態特性は母方に由来すると想定される。おいしく、倒れない、病気にも強い特性、米づくり農家にとって此の上ない優れた特性は品種改良の妙であろう(前述)。
2026年3月 6日 09:22








