山形の米作りの歩み 稲品種と栽培の系譜より(12)
Ⅺ 米のタンパクは善玉か悪玉か
「日本人は、幼いころから、それぞれの家庭で毎日ご飯を食べ、その積み重ねからご飯に対する好みを持っており、ほとんどの人がおいしいというご飯、まずいというご飯がある。おいしいご飯のイメージは色が白く、艶があり、粒の形がよい(視覚)、噛むときほとんど音がしない(聴覚)、風味がある(嗅覚)、いくら噛んでも味が変わらず、多少脂っこい感じとなんとなく甘い感じがするが無味に近い(味覚)、あたたかく、ご飯粒が滑らかで柔軟、粘りと弾力がある(触覚)」15)。
五感の中で最も重要なのは触覚、すなわち咀嚼時の食感で、これにはご飯の硬さ、粘りなどの物理的要素に支配される。物理的要素は食味に対して7~8割も寄与しているという。この事実は、日本人の多くがコシヒカリに代表されるように軟らかく粘りの強い米飯を好むことからも明らかである。そして、物理的要素に影響を与えるのが米の主要成分であるデンプン、タンパク質である。玄米の70%余りがデンプンで、デンプンはブドウ糖が直鎖状に連なったアミロ-スと、樹枝状につながったアミロペクチンの2成分から構成されている。米はデンプンの特性から「うるち米」と「もち米」とにわかれるが、もち米デンプンはアミロペクチンのみから構成され、うるち米デンプンはアミロ-スとアミロペクチンから構成されている。米飯に粘りがあるのは、水を吸うと糊化するデンプンの特徴で、粘りは米飯のおいしさを左右する決め手であるが、粘りを出すのはアミロペクチンだけである。アミロース含量の多い米は硬くパサパサした飯になり、逆にアミロース含量が低い米は、軟らかく、粘りの強い飯となる。わが国の通常の品種のアミロース含量は15~23%のものが多いが、良食味品種コシヒカリ、つや姫は18%前後である。アミロ-ス含量は品種の特性の一つでもあるが、登熟期間の気温に大きく影響される。登熟期間が高温になると、アミロ-ス含量は低下し、低温になると増加する。
出穂後平均気温と玄米アミロ-ス含量との関係(山形県稲作指針より作成)
次いで含量が多いのがタンパク質で7.5%ほどを占める。タンパク質は米の大切な栄養分の一つではあるが、その含量が米のおいしさを決定すると言っても過言ではない。タンパク値は食味判定の有効な指標だ。玄米のタンパク質含有量は通常6~8%程度であるが、8%を超えるとコシヒカリ、つや姫でも粘りがなくまずいご飯になる。
タンパク質は、その溶解性の相違によって、アルブミン(純粋可溶性)、グロブリン(食塩水可溶性)、プロラミン(アルコ-ル可溶性)、グルテリン(アルカリ可溶性)に分類される。これらのうち、グロブリンは玄米の外層部に多く分布し、精米内部には少ない。プロラミンやグルテリンは、米の貯蔵タンパク質で、精米外層部から内部にかけて散在する。これらの2種類の貯蔵タンパク質は、生理機能をもたず、発芽の際に分解され、次世代の栄養分として利用される。グルテリンは人間が消化できるタンパクであるが、プロラミンはご飯をまずくする悪玉タンパクとみられている。プロラミンが米粒の外周部を取り囲むことで、米の吸水性を低下させ、物性的に硬さを増すとともに、デンプン同士の粘着を妨げることで粘りが低下すると考えられている。また、プロラミンは、出穂期前後に窒素肥料が効きすぎてアンモニア濃度が高まると、その害を回避するために急ぎ製造され、玄米外層部へ貯蔵される。

米のタンパク質の種類
米粒のタンパク質含量は窒素肥料の施肥量と比例的に増加する。一般には、窒素肥料は、元肥と追肥に分けて施用される。元肥の窒素施肥は、施用量が極端に多くない限り米粒のタンパク質含量には大きな影響を及ぼさない。しかし、穂肥施用(幼穂形成期)は施用量や施用時期によって、タンパク質含量に影響する。量が多い、施用時期の遅れは含量を高める。出穂以降に施す実肥は確実に増加させる。

施用N量とタンパク質含有量との関係(山形稲作指針より作成)
米の表層近くに集まっている微量なミネラル成分カリウムとマグネシウムもおいしさに関係する。登熟前半はカリウムの蓄積が先行するが、後半になるとマグネシウムの蓄積が増加する。この結果、登熟が進んだコメはうまみ成分のマグネシウムが多くなるため、良食味米はカリウムに対してマグネシウムの比率が高くなるという。コシヒカリ、ひとめぼれの良食味米品種のカリウムの含量は総じて少なく、多い米は粘りと弾性が弱いという16)。
コメのおいしさにはこのように善玉となる成分、悪玉となる成分が複雑にからみあって形成されるが、これらの成分を非破壊で瞬時に測定する近赤外分析装置を組み込んだ「食味計」が生産、流通の現場で普及している。「食味計」は、タンパク質などの成分値と食味値をズバリ表示する。生産者の通信簿ともいえる。反面、生産者は通信簿を見て一喜一憂しながらも、次年度の米作りへの確かな手ごたえと、改善点を見出すことができるメリットもある。つや姫、雪若丸、はえぬきの美味しさの特性を最大限に発揮させる米作りは生産者の施肥法などの栽培管理の手ひとつにある。
食味検定機器とタンパク質含有量の測定
2026年3月19日 09:22








