出穂後の高気温と酒米品質(6)

 令和6年産の酒造好適米品種山田錦と愛山(いずれも兵庫県産)の品質を調査した結果、心白未熟粒割合(サタケ穀粒判別器醸造用による)が高いこと、心白未熟粒歩合と玄米タンパク質含有率との間には負の相関が認められた(前報4)。とくに、タンパク質含有率が低いサンプルでは心白未熟粒歩合は山田錦で60%、愛山で70%と高い割合を示すものが多かった。白濁粒.jpg
 そこで、タンパク質含有率が6.5%のサンプルから整粒と心白未熟粒(以下、白濁粒)を選別し、それぞれの玄米特性を調査したのが下表である。選別した整粒は粒の中央に心白が入り、白濁粒は粒全体が白濁している(右写真)。
 令和6年は山田錦、愛山とも8月25~31日に出穂したことから、出穂後20日間の平均気温は9月上・中旬の平均気温から推定、山田錦は28℃(アメダス兵庫県西脇)、愛山(同徳島県徳島)は29℃で、いずれも平年の平均気温より3~4℃高かった。

白濁粒の玄米特性.jpg

 表に示したように、両品種ともに、玄米タンパク質含有率は整粒が白濁粒より0.1~0.2%高めであるほかは、玄米千粒重、粒サイズには差は見られなかった。
 澱粉集積の誘導期である開花から登熟初期の間は高温ストレスの感受性が高く、この期間に26℃以上の高温に晒されると玄米白濁(腹白・背白・基白・心白・乳白)が助長される。酒造好適米品種では心白粒が多く、高温下では心白部分が腹側に流れ乳白状を呈する。心白形状が眼状型で発現率が高い愛山などの酒米品種では玄米全体が白濁化しやすい。
 同じイネ個体で、高温ストレスを同じく受け、玄米サイズやタンパク質含有率も同等の粒が整粒と白濁粒を形成するのはなぜだろうか。そのメカニズムについて、三ツ井らは(醸協112-5)次のように推察している。「整粒では熱ショックタンパク質や水ストレス応答タンパク質の変動が小さく、高温ストレスを感じていないかあるいは登熟のためのプログラムの乱れが早期に修復されたものと考えられる。高温ストレス下にス-パ-オキシドジスムタ-ゼによって生成されるH2O2(過酸化水素)は高温応答シグナルとして働き、早期にストレス応答タンパク質を誘導し、澱粉の合成・分解のバランス異常を回避する方向に導くものと思われる。著者らは、H2O2が高温登熟性の鍵因子の一つであり、強い高温ストレスに晒される前のH2O2濃度上昇誘導が高温登熟性改善の戦略となりうると考えている。酒米にも 特有の高温障害・白濁化メカニズムもあることから酒米を用いた研究が必要である」。 

2025年4月 3日 14:12