出穂後の高気温と酒米品質 (1)

8月気温と千粒重.jpg

 令和5年の米づくりは8月の記録的な高温に見舞われ、品質が大きく低下した。県産米は1等米比率が46.1%と落ち込み、現在の検査制度の開始以降で最低となった。粒の一部が乳白色になる「白濁粒」が多発したのが主要因。
 酒造好適米品種も同様に品質は大きく低下し、県産「出羽燦々」の1等米以上の等級比率65%、「雪女神」で75%であった。いずれも心白が大きく白濁粒の多発生による。
 酒造好適米の品質に及ぼす出穂後の高気温の影響についての調査結果を以下に示そう。
 調査データは、県内の酒米産地である酒田市、金山町、新庄市、尾花沢市、山形市において、令和1~5年に生産した「出羽燦々」、「雪女神」、「出羽の里」の玄米サンプルの千粒重、タンパク質含有量、心白未熟粒歩合である。出穂後の気温は出穂後11~20日に相当する8月中旬平均気温とし、、生産地最寄りのアメダスによる。心白未熟粒はサタケ穀粒判別器醸造用、タンパク質含有量はFOSSで測定した。
 8月中旬の平均気温を取り上げたのは、この時期が米の成長、デンプン蓄積にとって重要であり、酒米品質に大きな影響を及ぼすとされるためである。以下、紹介する。

 <8月中旬の平均気温と玄米千粒重との関係>

 玄米の大きさ(千粒重)はもみ殻の大きさによって一次的に決定されるが、このもみ殻の大きさは穂孕期間を中心に出穂期まで決まり、出穂後はこの決まった大きさのもみ殻の内容積を、どの程度に胚乳が充満するかによって、二次的に玄米の大きさが決定される。酒田市などの平たん地では穂孕期間の気温がもみの大きさに影響するほど低下しないが、金山では穂孕期間の最低気温が低下することで、もみの生長が影響を受け、低いほど小さく形成される。金山令2年は穂孕期間の最低気温が17℃で経過したことから、これらのデータを除くサンプルを込みにして、8月中旬の平均気温と千粒重との関係は2次曲線で表せることが分かった。この関係は三品種とも同様であった。
 すなわち、千粒重は平均気温25℃をピークに、これ以上に高まるに従い低下し、30℃では2~2.5g低下した。この関係は兵庫県産「山田錦」でもみられ、出穂後11~20日目までの登熟期間の気温と千粒重との相関係数は-0.653で有意であった(池上)。
 高温登熟条件で一粒重が低下するメカニズムは?、
 ①高温登熟条件では、登熟前半の粒重増加速度が大きくなるが、その一方で粒重増加期間、すなわち登熟日数が短縮し、粒重が低下する(長戸)。
 ②高夜温が粒重増加への影響が大きい。穂の部分のみを高夜温にした場合に、茎葉に炭水化物を残したまま粒重が低下する⇒高夜温による胚乳細胞の成長抑制(森田)。
 ③玄米一粒重低下のメカニズムは、デンプンの合成と蓄積に問題があるという点では、白未熟粒のメカニズムに類似すると考えられる(近藤)。後述するように、本事例でも、千粒重の低下と心白未熟粒の発生とが併発している。
 
 
 
 

2024年4月18日 14:00