良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(8)

 酒米適性は以上述べたように、産地の気象条件、土壌条件、栽培条件等で変動する。自然相手の米作りであることから変動するのは当然である。しかし、蔵元が手にする原料米は、毎年品質良好で、しかも均一であることが望ましい。このことから、栽培面での目標は、①粒は大きく豊満で粒揃いを良くする、②鮮明な心白の発現を促す、③タンパク質含有率を低くする、④胴割れ粒の発生を軽減するにある。
YS26.jpg S26:栽培ポイントの基本は土づくりにある。そのためには、まず田んぼの土壌特性を知っておこう。ゆびきりげんまんの田んぼの土壌型は泉田川を境に、細粒湿灰色低地土と礫質灰色低地土、赤坂、昭和地区の多湿黒ボク土に分類される。
YS27.jpg S27:金山酒米研究会の土づくり肥料(ケイ酸質資材)の施用とタンパク質含有量との関係を土壌型別で調査した結果、黒ボク土壌で長年にわたって施用した生産者のタンパク質含有量は、施用しない生産者より明らかに低いことが確認された。このデータを受け、その後は研究会全員が施用するようになった。
YS28.jpg S28:田んぼを耕す深さもタンパク含有量に影響するデータがある。耕起の効率や燃料費との関係もあるが、深い方がタンパク含有量は低下する。
YS29.jpg S29:酒米栽培の栽植密度は70株の密植が千粒重、心白率を高めるとされてきた。しかし、最近では一般栽培と同様に酒米生産者もコスト削減、規模拡大による苗づくりの省力化を目的に疎植化の傾向にある。金山の生産者が実施している出羽燦々の疎植(尺植え)の調査データによれば、疎植は収量の年次変動は大きいが、品質は千粒重、整粒歩合、心白率は並み、タンパク質含有量は低め、ふるい目2.0mmに対する2.1mmの収量比は2~6%高めで、疎植区の品質は70株に対し並みからやや良である。
 疎植栽培では、米が小粒化して玄米タンパク質含有量は高くなる場合が多いとされてきた。疎植では分げつ節位の高い茎が増えるためでないかと考えられる(上図右)。金山の事例は、生産者が酒米づくりのベテランであることもあり、品質の低下はみられなかったのでないか。
 一方、移植後に低温に遭遇したり、灌漑水温が低く活着障害を起こしやすい中山間地での疎植は穂数不足による減収、収量変動が懸念される。また、出羽燦々のように初期分げつ発生が遅い酒米品種でも同様である。極端な疎植は避け、50~60株/坪に調整するのが無難であろう。
 


2024年3月22日 10:03