良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(7)

YS25.jpg  S25: 近年の高温化で注目されているのが蒸米の消化性である。もろみの溶解性(消化性)には、米の性質が大きく影響し、同じ品種であっても、生産年や生産地の気象条件によって左右され、蔵元では経験的に、天候に恵まれた豊作の年は米の溶解が悪く製造効率が低下し、逆に冷夏の年は溶解しやすいと言われている。出穂後高温年の米は溶けにくく、低温年は溶けやすい。
 日本酒の製造において、米のデンプンにはアルコ-ル発酵に必要な当分を含まないため、麹菌の働きにより、米のデンプンを溶解、糖化させブドウ糖を作るが、米の溶解の程度(消化性)が製造効率を左右し、消化性が低いとアルコ-ルの発生量が少なく、酒粕の発生量が多くなる。その結果、日本酒の品質にも影響を及ぼす。消化性にはデンプンの老化特性に密接に関係するデンプンの分子構造が大きく影響を及ぼすことが分かっている。具体的には、アミロペクチンの側鎖構造が消化性に大きく影響し、また、アミロペクチンの側鎖構造は、登熟期の気象条件の影響を受けるため、登熟期間の気象データから消化性を予測できる。
 雪女神の消化性(Brix)の適値は10前後とされ、その時の出穂後40日間の平均気温は上図から23℃と読み取れる。一般に、登熟に最適な気温は、出穂後40日間の平均気温で22.5℃であることから、登熟最適気温と消化性からの最適気温はほぼ一致する。
 出羽燦々の消化性は、出穂後16~25日間の平均最高気温との関係が深く、両者には高い負の相関関係が認められている(醸協誌)。また、山田錦の消化性を発表した論文(作物学会誌2021)によれば、消化性の平年並みが9.7~10.3とされ、この値は出穂後8~29日の最高気温の平均値が27.8~29.6℃である。消化性が平年よりかなり高い10.9以上になると最高気温の平均値は26.3℃、反対に平年よりかなり低い9.4以下になる最高気温の平均値は30.1℃である。兵庫県の酒造メーカの情報によれば、山田錦の消化性が低い年である2010,2019年の値はそれぞれ9.1、9.4であった。反対に、消化性が高いとされた2015年は11.0であった。
 出羽燦々、山田錦と品種、生産地が異なるにも関わらず、消化性が出穂後の登熟初・中期間の最高気温と高い負の相関関係にあることが認められていることは、最高気温から消化性を予測できることを示唆している。
 消化性の分析には手間がかかるため、簡易法の一つとしてアルカリ崩壊性試験が開発されている。その実用化に向けて、県工業技術センタ-で試験が進められている。

2024年3月21日 11:33