良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(2)


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 S8: 酒造好適米品種の特性、すなわち酒米適性は栽培年、栽培地、生産者によって当然ながら変動する。アスク試験田のように毎年同一栽培法で作っても年次変動する。試験田での変動は主として栽培期間の気象変動によるところが大きいが、生産現場での変動要因は複雑である。その変動を栽培適性個々についてみてみよう。千粒重では、ゆびきりげんまんの出羽燦々平均値は、最高が平23の27.9g、最低が平28の25.9gで2gの差がみられた。金山の出羽燦々では、24.5~28.5g(平19~令5)で4gの差がみられている。雪女神は出羽燦々より変動が大きい。


YS9.jpgS9:生産年での変動の大きな要因が登熟期間の気温である。登熟期間の平均気温が高いと千粒重は明らかに低下することが令5年の事例からもわかる。
YS10.jpgS10: 一方、中山間地金山の調査からは、千粒重は出穂前の低温で低下するという現象がみられた。山形県水田農業研究所は25年近くにわたって金山現地で酒米の育種試験を行っているが、その試験に供試した出羽燦々の千粒重は出穂前11~20日(穂孕期)の日最低気温平均値と高い相関関係を示した。同様の傾向は、金山酒米研究会の千粒重の平均値でも見られている。
 なぜ金山産の出羽燦々の千粒重が出穂前の穂孕期の最低気温に影響されるのか。それ花(もみ殻)の大きさが出穂前、とくに穂孕期間に形成されることと関係する。すなわち、玄米の大きさは、もみ殻の大きさによって一次的に決定されるが、このもみ殻の大きさは出穂前までに決まり、出穂後はこの決まった大きさのもみ殻の内容積を、どの程度に胚乳が充満するかによって、二次的に玄米の大きさが決定される(松島)。
 平たん地では穂孕期間の気温がもみ殻の大きさに影響するほど低下はしないが、中山間地の金山では穂孕期間の最低気温が低下することで、頴花の生長が影響を受け、低いほど小さく形成される。このため、出穂後好天で経過したとしても千粒重はもみ殻の大きさに規制されて大きくはならない。上図で、令5年(赤字)の千粒重は低下しているが、これは出穂後の高温の影響が大きいとみられる(後述)。
 穂孕期が低温に遭遇する冷害年で千粒重が低下するとの事例は多い。福嶌は、出穂前(出穂前4週間)の平均気温と千粒重には正の関係がみられ、宮城県、青森県では特に強い関係がみられる。これらの県では出穂前の気温が低いと千粒重は小さくなる(r=0.85:宮城)。その要因は、気温が低いともみ殻サイズが小さくなるためである、と述べている。
 県内の酒米生産地は中山間地に多いことから、本図は千粒重の予測、千粒重を高めるための栽培対応、さらには玄米調製でのふるい目幅の大きさを判断するうえで活用できる(金山の事例)。
YS11.jpgS11: もみ数の多少も千粒重に変動をもたらし、もみ数が多いと当然ながら千粒重は低下する。

2024年3月 8日 14:04