良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(12)
S41: 大粒の酒米は玄米の選別段階でふるい目幅を大きくすることで得ることができる。ふるい目幅は2.0mmが主流であったが、雪女神の普及によって、2.1mmにに切り替わりつつある。もちろん、金山酒米研究会、ゆびきりげんまんは2.1mm網を使用している。2.0mmから2.1mmに切り替えることで、千粒重は大きく、整粒歩合がアップ、タンパク質含有量は低下するなど、酒米品質は明らかに高まる。
S42: 半面、収量は2.0mm選別より当然ながら減収する。金山酒米研究会出羽燦々で平成23~令和5年産まで調査した結果では、生産ねん、生産者で減収程度は異なる。生産者A(黒)はB、Cより明らかに減収程度が大きく、年次による変動も大きい。C(緑)の減収程度年次変動が小さく安定して低い。平均で5~6%、30kg近く減収している。
S43: 金山酒米研究会の出羽燦々平成27年産、28年産について、研究会全員の千粒重と減収率との関係から、減収率は千粒重25gでは平均10%、26gで7%、27gで5%、28gで3%と試算した(上図左)。2.1mmで選別した売位の減収程度には明らかに品種間差異がある(上図右)。これは、品種特性によって玄米の長さ、幅、厚さが異なるからである。アスク試験田の調査によれば、出羽燦々は厚みがあることから減収率は5%ほどにとどまるのに対し、雪女神は長さ、幅は大きいが厚みがないため25%ほど減収した。美山錦のように千粒重の小さい品種は35%ほど減収。
S44: 大粒、高品質の酒米づくりは、2.1mm選別でも減収に耐える粒厚の厚い米に仕上げることにある。一粒、一粒の最大限の大きさは、もみ殻の大きさで決まり、このもみ殻にどれだけのデンプンを蓄積するかにある。玄米の肥大は長さ⇒幅⇒厚さの順に進むことから、厚みのある玄米の形成は、登熟中~後期の気象、葉、根の稲体活力に影響されるであろう。とくに稲体活力の維持が重要である。
そこで、そのための技術対応をまとめたのが上図である。図に示した各生育時期のそれぞれの技術はいずれも米づくりの基本技術と呼ばれるものである。土づくりから収穫・乾燥・調製までの酒米づくり八十八の基本技術の積み重ねが一粒、一粒を大きく育み、その米が蔵元から信頼され、芳醇な酒を醸すと言えるのでないだろうか。アスクが平成17年から20年近く、山形市本沢地区、金山酒米研究会、新庄市ゆびきりげんまん、河北酒米研究会の「匠」達と付き合い、その田んぼと調査を通じて得た結論である。
とはいえ、酒米産地の現場でも高齢化や担い手不足への対応は喫緊の課題となっている。酒造好適米の栽培には経験と知識が不可欠である。酒米づくりにとって自然条件の利点ももちろんあるが、それに加えて、地域と生産者に酒米づくりの技術が蓄積され、それが継承されることが重要である。
これまでのべた酒米の生産技術「匠の技」を駆使することは困難かもしれない。一方、進展著しいICT(情報通信技術)の活用が農業生産の場で注目されている。匠の技を「みえる化」し、伝承することや、ドロ-ンによる生育把握、適正な施肥、水管理の自動化などなど、「スマ-ト農業」が次世代の酒米づくりの主役になるだろうか。
2024年3月28日 10:37