良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(7)

栽培技術のポイント

酒米適正は以上に述べたように、産地の気象条件、土壌条件、栽培条件等で変動する。自然相手の米作りであることから変動するのは当然である。しかし、蔵元が手にする原料米は、毎年品質良く、しかも均一であることが望ましいことは言うまでもない。すなわち、栽培面での目標は、①粒は大きく豊満で粒揃いをよくする。②鮮明な心白の発現を促す。③タンパク質含有率を低くする。④胴割れ粒の発生を抑える。このことで、蔵元からの酒米産地に対する評価が高まり、延いては農業経営の安定にもなる。
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 24 栽培ポイントの基本は土づくりにある。金山における土づくり肥料(ケイ酸質資材など)の施用とタンパク質含有量との関係を調査したところ、黒ボク土壌で長年にわたって施用した生産者のタンパクが施用しない生産者より明らかに低いことが確認された(平18)。この調査結果を受けて、その後は研究会全員が施用するようになった。
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 25 酒米栽培の栽植密度は70株の密植が千粒重、心白率を高めるとされてきた。しかし、最近では一般栽培と同様に酒米生産者もコスト削減、規模拡大による苗づくりの省力化を目的に疎植化の傾向にある。金山の生産者が実施している出羽燦々の疎植(尺植え)の調査データによれば、疎植は収量の年次変動は大きいが、品質は千粒重、整粒歩合、心白率は並み、タンパク含有率は低めであった。総じて、慣行の70株との差は小さい。ただ、刈り取り期のイネはガッシリしている。金山町、新庄市の酒米生産者の栽植密度は、これまでの72株から65~60株と疎植化の傾向にある。
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 26 高品質のための施肥法は、つや姫や雪若丸のおいしい米づくりと同様である。もみ数確保、もみ殻形成にもっとも影響する穂肥については1.5kg、ただし、その施用時期が遅れると確実にタンパクは高まる(雪女神: 図の緑棒)。ゆびきりげんまんグル-プは穂肥施用の7月10日頃、田んぼを巡回、葉色、幼穂の有無を調査し、穂肥時期を確認し合っている。穂肥量は1.5kgを厳守。
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 27 穂揃期の葉色とタンパク質含有率との関係をアスク試験田で調査した結果では、いずれの品種も止葉の葉色が濃いほどタンパク含有率は高い。このことは、穂揃期の葉色から玄米タンパク含有率を推定できることを示している。
 一般に葉色と玄米タンパク質含有率は正の相関関係にある。葉色が濃いと玄米タンパクが高い。アスク試験田、金山現地では、穂揃期の葉色が濃いと玄米タンパクは高いという関係がみられている。金山の事例では、幼穂形成期(7月10日)の葉色がSPAD値で38以上、穂揃期36以上でタンパク質含有率の指標値7.3%を上回ることが明らかになった。葉色による穂肥の時期、量を判断することを"穂肥診断"という。そこで金山における葉色による穂肥診断と対応について、①まず幼穂形成期の7月10日頃に葉色を測定する。②その指標値は38とし、茎数、草丈の生育量をも勘案して穂肥の要否を判定する。③次に、穂揃期に葉色を測定し、タンパク含有率7.3%より高めない葉色の指標値35であるか確認する。もし、この値より明らかに高い場合には、次年度に向けての穂肥対応(穂肥量、穂肥時期など)を再検討する。この手法により、産地から玄米タンパク含有率が低く、バラツキが小さい「出羽燦々」を蔵元に供給できる。















2022年10月28日 09:18