良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント(6)

P21.jpg 21 酒米づくりでもっとも注意を払わなければならないのが胴割れである。令3年産米も胴割れ粒が目立った。千粒重が大きく、心白発現が鮮明で、タンパク含有率が低いと言ったった酒米適正が優れていたとしても、胴割れ粒多発でアウトになってしまう。50%以下に高度精米される酒造好適米にとって、胴割れ粒発生は最も気を付けなければならないい。胴割れ粒は外観上から確認できるもの、胴割れ粒を調べるグレーンスコ-プで確認できるものがある。アスクではサタケの醸造用穀粒判別器で胴割れ粒を調査しているが、グレ-ンスコ-プで調査した値が明らかに高い(写真)。胴割れ粒発生の原因の一つに、出穂後10日間最高気温が30以上連続して経過すること、という研究データがある。これは、登熟初期の気温が胚乳組織の大きさ、細胞総数、米粒の長さ、幅の大きさなど、玄米内部・形態に関係する形質に影響し、これが胴割れ粒発生と関係する。このため、出穂後10日間以上にもわたって最高気温が30℃以上も続いたときは、胴割れ発生の黄色信号である。
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 22 胴割れ粒は刈り遅れ、不適切な乾燥法で発生するが、金山酒米研究会と新庄のゆびきりげんまんの事例で分かったことは、登熟後期の9月上旬の平均気温が胴割れ粒歩合と関係することである。すなわち、気温が低い年は総じて胴割れ粒歩合が高かった。その要因は判然とはしないが、①9月上旬の気温が低いことで2次枝梗着生もみの登熟は進まないのに、一次枝梗着生もみや穂の上部着生もみは登熟が進み一穂内に登熟ムラを生じること、②青もみが多く刈り取りを遅らせていること、などにあるのでないかと推察した。
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 23 近年の高温化で注目されているのが蒸米の消化性である。もろみの溶解性(消化性)には、米の性質が大きく影響し、同じ品種であっても、生産年や生産地の気象条件によって左右され、蔵元では経験的に、天候に恵まれた豊作の年は米の溶解が悪く製造効率が低下し、逆に冷夏の年は溶解しやすいと言われている。出穂後高温年の米は溶けにくく、低温年は溶けやすい。(日本酒の製造において、米のデンプンにはアルコ-ル発酵に必要な糖分を含まないため、麴菌の働きにより、米のデンプンを溶解、糖化させブドウ糖を作るが、米の溶解の程度(消化性)が製造効率を左右(消化性が低い場合、アルコ-ルの発生量が少なく、酒粕の発生量が多くなる)し、その結果、日本酒の品質にも影響を及ぼす。消化性にはデンプンの老化特性に密接に関係するデンプンの分子構造が大きく影響を及ぼしことがわかっている。具体的には、アミロペクチンの側鎖構造が消化性に大きく影響し、また、アミロペクチンの側鎖構造は、登熟期の気象条件の影響を受けるため、登熟期の気象データから消化性を予測できる)。雪女神の消化性(Brix)の適値は10前後とされ、その時の出穂後40日間の平均気温はグラフから23と読み取れる。一般に登熟に最適な気温は出穂後40日間の平均気温で22.5℃であることから、登熟最適気温と消化性からの最適気温は一致する。出羽燦々の消化性は、出穂後16~25日間の平均最高気温との関係が深く、両者には高い負の相関が認められている(醸協)。また、山田錦の消化性を発表した論文によれば(作物学会誌2021)、消化性の平年並みが9.7~10.3とされ、この値は出穂後8~29日の最高気温の平均値が27.8~29.6℃である。消化性が平年よりかなり高い10.9以上になる最高気温の平均値は26.3℃、反対に平年よりかなり低い9.4以下になる最高気温の平均値は30.1℃である。兵庫県の酒造メーカの情報によれば、山田錦の消化性が低い年である2010年、2019年の消化性の値はそれぞれ9.1、9.4であった。反対に消化性が高いとされた2015年の消化性は11.0であった。出羽燦々、山田錦と生産地が異なるにも関わらず、消化性が出穂後の登熟初・中期間の最高気温と高い負の相関関係にあることが認められていることは、最高気温から消化性を予測できることを示唆している。消化性の分析には手間がかかるため、簡易法の一つとしてアルカリ崩壊性試験が開発されている。現在、工業技術センターでその実用化に向けての試験が進められている。米のタンパク質含有率が高いと吸水性は低下し、蒸米の消化性も悪くなる。また、心白粒は無心白粒に比べ溶解性に優れていると言われている。











2022年10月20日 14:16