「良質酒米生産に向けた栽培技術のポイント」(2)

P7.jpg 7 酒造好適米品種の特性、すなわち酒米適正は栽培年、栽培地、生産者によって当然ながら変動する。アスク試験田のように毎年同一栽培法の作り方をしていても年次変動する。試験田での変動は主として栽培期間の気象変動によるところが大きいが、生産現場ではもっと大きく変動する。その変動要因を酒米適性個々ついてみてみよう。アスク試験田における中生品種の玄米玄米千粒重の年次変動(平17~令3年産)は、最高28gから最低25g、その差は3g、金山酒米研究会の出羽燦々では、24.5~28.5g(平29~令3)で4gの差があった。
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 8 そこで、アスク試験田の気象と玄米千粒重との関係をみると、①7月中旬(穂孕期間)の日照時間と千粒重には弱いながら正の相関が、②出穂後20日間の平均気温と玄米千粒重(中生4品種こみ)には気温24.5~29の範囲では負の関係がみられ、千粒重は出穂後気温が高く経過した年に低下する傾向がみられる。そこで、千粒重が27g以上の大粒となった年次を取り上げてその気象条件をみると、7月中旬の日照時間が平年より多いことに加え、出穂後20日間の平均気温が26℃以下と低めであった。
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 9 一方、中山間地金山の千粒重は出穂前の低温で低下する現象がみられた。県水田農業研究所は25年近くにわたって金山現地で酒米の育種試験を行っているが、その試験で調査した出羽燦々の千粒重は出穂前11~20日(穂孕期)の日最低気温平均値と高い相関関係を示した。同様の傾向は、金山酒米研究会の千粒重の平均値でも見られている。なぜアスク試験田産や金山産の出羽燦々の千粒重が出穂前の穂孕期の日照時間や最低気温に影響されるのか。それは頴花(もみ殻)の大きさが出穂前、とくに穂孕期間に形成されることと関係する(卑近な例でいえば、サイフの大きさが小銭入れか、万札入れかが決まる)。すなわち、玄米の大きさはもみ殻の大きさによって一次的に決定されるが、このもみ殻の大きさは出穂期まで決まり、出穂後はこの決まった大きさのもみ殻の内容積を、どの程度に胚乳が充満するかによって、二次的に玄米の大きさが決定される。平たん地アスク試験田は穂孕期間の気温がモミの大きさに影響するほど低下しないが、日照時間が寡少になることで、モミの大きさが規制されるのでないか。これに対し、中山間地金山では穂孕期の最低低温が低下することで、頴花の生長が影響を受け、低いほど小さく形成されるため、出穂後好天で経過したとしても千粒重はもみ殻の大きさに規制されて大きくはならない。
 穂孕期が低温に遭遇する冷害年で千粒重が低下するとの事例は多い。県内の酒米産地が中山間地に多いことから、本図は千粒重の予測、千粒重を高めるための栽培対応、あるいは、玄米調製でのふるい目の大きさを判断するうえで活用できるであろう
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10 もみ数の多少も千粒重に変動をもたらし、もみ数が多いと当然ながら千粒重は低下する。


















2022年10月 4日 09:37