人と風土が育む山形の酒米(9)

 
出羽燦々、出羽の里、雪女神を育成した「山形県農業総合研究センター水田農業研究所」
の本館と育種圃場
 吟醸酒を醸す酒造好適米品種(1)
山形の酒は吟醸酒、大吟醸酒などの高級酒の出荷割合が高く、また、全国新酒鑑評会で金賞を受賞する蔵元数は全国トップクラスである。吟醸王国を標榜する山形の酒造りは、「地理的表示制度」に認定されるなど、その評価は高まっている。特定名称酒の原料米が酒造好適米と呼ばれ、高級酒づくりに適した品種だ。
 かつて、山形県の酒米は、前回紹介したように工藤吉郎兵衛翁が育成した酒米三部作(酒の華・京の華・国の華)の作付けは100ha以上あった。しかし、戦後は米不足の中で長らく酒米生産はなかった。適品種もなかった。
 酒米品種として山形県の奨励品種に採用された第1号が「改良信交」である(昭39)。改良信交は丈が長く倒伏しやすい、単収が上がらないなどから20年後には姿を消す。その後、酒米より収益性が優っていた良食味米ササニシキの普及で、県内に酒米は定着しなかった。蔵元からは、“酒米不毛の地”といった厳しい声が上がる。
 山形に酒米がないことに危機感をもった酒造組合連合会は県に対し“山形県に合った酒米の開発”を要請する。これを受けて、県・生産者団体・酒造組合連合会で山形県酒造適性米生産振興協議会を設立、酒米の振興に向け本格的な取り組みが始まる。協議会は、秋田県で作付け実績がある酒造好適米「美山錦」に着目し、ササニシキの不適地である中山間部地帯で試作する。3か年の試作の結果、蔵元より一定の評価もあり県の奨励品種に採用される(昭63)。本品種は最高200ha作付けされたが、品質が上がらず作付けが減少する。酒造関係者からは、県オリジナルの酒造好適米品種への期待が一段と強まる。
 「県産酒イメージ高揚のためには県オリジナルの酒造好適米が欠かせない」との声を受け、県農業試験場庄内支場(現山形県農業総合研究センター水田農業研究所)で育種を開始したのは昭和59年。11年の歳月を経て吟醸酒に向く「出羽燦々(でわさんさん)」が誕生する。本品種を皮切りに、「出羽の里」、「雪女神」を育成、吟醸王国山形を支える「酒米三部作」である。長年これら品種の育成にかかわった中場 勝所長は「栽培しやすく、収量も多く、病気に強くとも、良い酒ができるとは限らない。それが酒米開発の難しさ」と述べている。工業技術センター、蔵元とのスクラムで開発された「酒米三部作」の特性を紹介しよう(続く)。

 

 

2022年2月 7日 12:33