人と風土が育む山形の酒米(14)

DSC_1416 - コピー.JPG酒米の里から真冬の鳥海山を望む

  4 酒造好適米の品質と栽培技術向上 (1) 

 秋田県との県境に位置する豪雪の地金山町、白壁の家並と美しい田園風景から県内では”酒米の里”とも呼ばれている。弊社はこの里で、酒米に取り組む「JA金山酒米研究」60数名の生産者とともに17年間に経って品質向上に努めてきた。この間、品質調査に関するデータ数は5000点にも及ぶ。これらのデータの解析から得られた品質の変動要因および品質向上に向けた栽培方法の改善の一端を紹介しよう。内容が少々専門的になることをお断りしておきたい。

 1)品質変動の要因 
山形県内の酒米の主産地は金山町のように中山間地域であり、酒造適性の関連指標(玄米千粒重、心白発現率など)は産地や年次の気象の影響により大きく変動しやすい。

<玄米千粒重>
 酒造適正のうち、玄米の大きさ(千粒重)は高度精米する大吟醸酒用原料米の重要形質の一つである。同一品種なら千粒重が大きいほど良い。また、酒米の千粒重と心白発現率との間には正の相関があるため、千粒重を重くすることによって、心白発現率が高まり、総体的にタンパク質含有率を低下させる。
 玄米の大きさはもみ殻の大きさによって一次的に決定されるが、このもみ殻の大きさは出穂期までに決まり、出穂後にはこの決まったもみ殻の内容積を、どの程度に胚乳が充満するかによって、二次的に玄米の大きさが決定される。
 そこで、出穂前11~20日間の穂孕期間の最低気温と千粒重との関係をみると、両者にはr=0.73の高い相関係数が得られた(図1)。すなわち、中山間地の金山での千粒重は、それが決定される二次枝梗分化期(7月5日頃)から出穂後40日(9月15日頃)までの約70日間のうち、頴花の縦生長(もみ殻の長さ)および横生長(幅)が最も盛んな出穂前11~20日の穂孕期間の気温、とくに最低気温が頴花の生長に関係し、玄米千粒重の大きさに影響したと考えられる。なお、穂孕期間が低温に遭遇する冷害年で千粒重が低下するとの報告は多い。
 工藤らは、「出羽燦々」の千粒重は穂孕期に相当する7月中~下旬の最高気温との間に有意な正の相関関係が認められたと報告している。このことから、穂孕期間の気温の年次変動は酒米の特性である千粒重の年次変動に大きく影響する。
 一方、アスク試験田では金山の結果と異なる(図2)。試験田における出穂後20日間の平均気温と玄米千粒重(出羽燦々・出羽の里・酒未来・山酒4号の中生品種こみ)には気温24.5~29℃の範囲では負の関係があり、出穂後気温が高く経過する年は千粒重は低下する。出穂後20日間は玄米の長さ、幅が形成される期間であり、この期間が高温で経過することで、長さ、幅の増加が抑制されると考えられる。
 以上の知見は、酒造好適米品種の千粒重に及ぼす気温の影響は、気温が低い中山間地と気温が高い平野部で異なることを示している。すなわち、酒造好適米品種の栽培に当たって、玄米千粒重は中山間地ではデンプンを蓄積する入れ物の大きさが決定される期間、平野部では入れ物にデンプンを蓄積する初期間の気温で変動することに留意する必要がある。

令3年千粒重(金山).jpg

図1 出穂前11~20日間の最低気温と千粒重(金山:出羽燦々 平7~令3)

 令3年千粒重(試験田).jpg
図2 出穂後20日間の平均気温と千粒重(アスク試験田 平18~令3)
 

 

2022年2月21日 09:59