人と風土が育む山形の酒米(13)

酒米品種の特性一覧.jpg                  山形県の酒造好適米品種の特性(アスク試験田)
酒米4品種の玄米.jpg

(2)地酒を醸す多彩な品種群

 昭和40~50年(1965~)代の山形の蔵元は、大量生産、大量販売の流れに乗り遅れていたという。昭和50年(1975)代に入って、地酒ブーム、吟醸酒ブームが起る。山形県の比較的小さな蔵がようやくその本領を発揮する。大量生産に見合う設備装置は、高品質の酒を造るのには向かなかったのである。時代に乗り遅れたのが幸いした。その一方で、県内のどの蔵元も吟醸酒に向く高級酒米「兵庫県産山田錦」の入手は困難であった。
 それならば本県に向く山田錦を独自で作ろう。酒米の取引にかかわっていた弊社河合と村山農業高校(当時)の先生、生徒らが挑戦する。金紋錦(長野県)と、山田錦を交配、誕生したのが「山酒4号」、愛称名「玉苗」である(昭58)。山酒4号は山田錦のように脱粒しやすく、大粒で心白が大きく形態的には山田錦の血を濃く引き継ぐ。出穂後の高温条件で腹白型心白粒が発生しやすく、品質は今一つ物足りないが、タンパク質含有率が低く酒質は山田錦同様、味わいが豊かな酒になる。
 山酒4号は酒米育種の交配材料としても用いられた。美山錦を母本に「龍の落とし子」が、逆に美山錦を父本に「酒未来」が育成された(平11)。ともに高木酒造「十四代」の純米大吟醸酒の原料米として「龍の落とし子」は淡麗で、瑞々しい酒を、酒未来は深い味わいの芳醇、香り豊かな、白ワインのような酒を醸す(高木酒造)。
 山形県の酒造好適米品種は以上述べたように実に多彩だ。産地品種銘柄(令3)は、出羽燦々、出羽の里、雪女神、美山錦、山酒4号、羽州誉、龍の落とし子、酒未来、改良信交、亀粋、京の華、山田錦、豊国、五百万石の14品種、その数の多さは、兵庫県の22品種に次ぐ。生産量も全国8位の3400トン、かつて、酒米不毛の地と蔵元から揶揄された面影はなく、酒米の里金山では酒米の田んぼが一面に広がる。

 

2022年2月17日 14:10