人と風土が育む山形の酒米(1)

Ⅰ 酒造りと酒米(1)
 霜月を迎えるとともに熱燗が恋しくなる。”淡麗辛口 ”、”芳醇旨味”の山形の地酒、雪からの贈り物”いい米”、”いい水”が醸す芸術品だ。地酒を醸す米を酒米という。酒米を蔵元では”酒造好適米” と呼んでいる。農林水産省の農産物規格規程では、酒造りに適するように選抜・育成した品種を「醸造用玄米」と言って食用米とは区分している。酒造好適米は一般の食べる米とは異なる大きな特徴を持っている。大粒である。心白といって米の中心に白色部分がある。酒米は精米により糠を取り除く割合が大きいため、精米時に砕米が少ないこと、そして酒の雑味につながるタンパク質含有量が少ないことだ。詳しく述べよう。
酒造好適米の玄米.png ① 米粒が大きいこと:米粒の大きさは千粒重の重さである千粒重という用語で表される。酒米は千粒重25~29gの品種が多い。食用米は22gほどである。酒米は精米歩合が高く、白米が小さくなるため大粒が好まれる。ちなみに、精米とは玄米の表面にある糊粉層(こふんそう;玄米の一番外に果皮、次に種皮、その下に糊粉層があり、さらにその下の胚乳組織が白米)を削り、白米にする作業で、削られた粉が糠である。精米の程度は玄米に対する白米の割合で表され精米歩合という。精米歩合は食用米では92%、酒づくりでは本醸造酒で70%以下、大吟醸酒は50%以下まで削る。日本酒は美味しい酒を造るために米を贅沢に使っていると言えよう。
心白.jpg 心白形状.jpg

心白粒と心白の形状

 ② 心白の発現:酒米の最大の特徴は心白だ。心白とは、米の中心にある白色部分のことである。心白の部分は、デンプンのつまりが蜜でないため、光が乱反射して白く見える。一方、透明な部分の組織はデンプンがしっかりと詰まっている。心白の部分は組織が柔らかいため、麹造りでは麹菌の菌糸が米の内部まで入り込み、デンプンを効率よく糖類に変えるほか、吸水性や醪(もろみ)の溶解性が良好になるなど、酒造りに適した構造になっている。酒米に心白が使われるようになったのは、このような適性が経験的に選択されてきた結果であろう。
 心白の発現は品種の特性であるが、発現率が高く大きいほど酒米として適するわけではない。吟醸酒造りでは精米歩合が50~60%、さらに高級酒では30%(70%を削り取る)などの高精米をする。心白が大きすぎると砕米や無効精米歩合が高くなる(無効精米歩合;精米時に砕米や粉状による白米の目減り割合)。
 心白については精米歩合との関係で、米の内部の心白の形や大きさが重視される。米の内部の心白は、米を横に割った横断面で観察できる。横断面の心白の形状は、品種によって異なり、点状、線状、眼状などに分けられ、線状が高精米に適し、麹菌の侵入もよいと言われている。酒米として著名な「山田錦」の心白形状は線状型、大吟醸酒に適する山形産「雪女神」は点状型が多い。 (以下、次号)  

酒造好適米の玄米.png

2021年11月 2日 09:57