「うまい米を育む」Ⅰ 山形の自然

 

 (新型コロナウイルスの感染拡大で外出ままならず、アスクが発行したパンフレット「うまい米にはワケがある」シリーズから「うまい米を育む」を数回にわたって連載します)

DSC_1872.JPG                 山形県の母なる川「最上川」と残雪の月山

 山形県は県境を高く険しい山々に囲まれている。福島と新潟とは朝日・飯豊連峰、宮城とは蔵王連峰などの奥羽山脈、秋田との間には鳥海山。そして県中央には霊峰月山が秀麗な姿を現す。山々には緑豊かなブナが生い茂る。
 山形の冬、深々と降り積もる雪は、里や山々を白一色に染める。月山には一冬に10mもの雪が積もるという。やがて、春の訪れとともに、雪解けの一滴一滴の水は幾条もの流れとなって、母なる川最上川へと注ぐ。俳人芭蕉が詠んだ「さみだれをあつめて早し最上川」は滔々と流れ米どころ米沢盆地、山形盆地、新庄盆地、庄内平野を潤し、夕映えの日本海へと至る。「暑き日を海に入れたり最上川」。
 ブナの林にしみこんだ雪解け水は地中に貯えられ、悠久の年を経てミネラルをたっぷり含んで最上川の多くの支流に流れ込み広大な水田を潤す。最上川は幾たびか氾濫を繰り返しながら肥沃な土をも作り上げてきた。そして農家もまた父祖の代から長い時をかけて、コメ作りに適した肥沃な土を作り育ててきた。
 山形の夏、山形、米沢の内陸地方は最高気温が高く、最低気温が低い典型的な盆地型気候である。昼夜の気温差は10℃以上にもなり、朝晩は涼しい。一方、日本海に面した庄内地方は海洋型気候で日照時間が多く、庄内平野特有の“清川ダシ”と呼ばれる東風が最上川峡谷から吹走する。ダシ風が吹く日は日照時間が大きく、気温較差も大きい。こうした気候条件は、イネの登熟には最適である。じっくりと味わい深く育ち、高品質・良食味米に仕上がる。
 明治11年(1878)、東北を旅行した英国人女性旅行家イザベラ・バードは「日本奥地紀行」で山形を「東洋のアルカディア(理想郷)」と書き記したという。山形の地はおいしいコメを育むアルカディアでもある。

 

2020年4月21日 11:37