酒米品種の千粒重・心白発現率に及ぼす気温の影響(1)

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山形市郊外の大岡山から望む早春の村山盆地(3月14日)

 アスク試験田に供試している酒造好適米品種の品質調査は平成17年から実施され15年目になります。この間、とりまとめたデータからは品質向上に有用な多くの知見が得られ、本ブログで紹介してきました。とくに、令和元年の試験田は出穂後に観測史上に記録されるほどの高温に見舞われたことから、このデータをこれまでのものに追加することで出穂後の気温と千粒重・心白発現率との関係がより確かなものになりました。また、中山間地の金山は7月中旬に低温に見舞われ、出穂前気温と千粒重との関係もより明らかになりました。新たに得られた知見を3回にわたり紹介します。

 1.出穂後11-20日間の平均気温と玄米千粒重との関係

                          表1 玄米の大きさの年次比較

出穂後気温と千粒重.jpg 玄米の大きさの比較 .jpg
図-1 出穂後11-20日間の平均気温と千粒重

 アスク試験田に平成17年から令和元年までの15年間供試した出羽燦々の千粒重について、出穂後10日間、同11-20日間、同21-30日間、同31-40日間の平均気温(山形気象台)と関係をみた。その結果、関係が比較的に明瞭だったのが出穂後11-20日間の気温である。出穂後11~20日間はほぼ8月中旬に相当する。15年間のうち、気温が最も高いのは令和元年の27.8℃、もっとも低いのが平29年の23.3℃であった。千粒重がもっとも大きい年が平20年の27.7g、もっとも小さいのが平19年の247gであった。気温と千粒重との関係を示したのが図1である。図1からは、両者は総じて負の関係にあることがわかる。
 図中の赤丸は平22、24、25年産で、3か年とも出穂後11~30日間の日照時間が対平年比130%と多いことが共通している。他年次は平年並みから少なめであった。そこで、この3か年を除いて両者の関係を見るとr=-0.76(R2=0.58)の高い相関係数が得られた。すなわち、出穂後の日照時間が平年並みから少ない年では、出穂後11-20日間の平均気温が24~25℃と低めで経過すると千粒重は高まることを示している。一方、気温が27~28℃と高く経過すると千粒重は低下する。ただし、気温が高くとも多照年では千粒重はむしろ高まる。
 この現象は、出穂後11-20日間の気温が高かった令和1年産と低かった平30年産の玄米の大きさを比較した表1からも明らかである。表1からは、玄米の長さ、厚みには両年で大きな差はみられないのに対し、幅には大きな差がみられることである。出穂後11-20日間は玄米の幅がほぼ決定される期間である。
 以上から、出穂後11-20日間の平均気温が高く経過した年は、玄米幅の肥大が抑制され千粒重は小さく形成され、本現象は、平たん部に作付けされた酒米品種で顕著に表れると考えられる。 
 注:高温による千粒重の低下が低日射によって著しくなる機構について森田を引用する(米の外観品質・食味 養賢堂)。日射が比較的十分ある場合には、高温によって粒重増加期間が短縮するものの、最大粒重増加速度が上昇て大幅な粒重低下を免れることになること、日射量が半減すると、高温による粒重増加期間の短縮程度は変わらないものの、粒重増加速度については上昇せずに粒重増加程度が著しくなる。これは低日射で同化量が減少することにより、粒重増加速度の上昇で粒重増加期間の短縮を補償する高温適応システムが働かくなったものと理解される。

2020年3月16日 13:15