アスク試験田のデータをまとめる(3)

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 山形に冬らしい天気が戻ってきました。山形市の10日の最低気温は-8.1℃、11日は-5.5℃まで下がりました。また、県内の積雪は、大蔵村肘折285㎝(平年262cm)、西川町大井沢240cm(199cm)、金山町
157cm(95cm)、山形市29cm(26㎝)と平年よりやや多めとなっています。
 降る雪を眺めながら、アスク試験田のデータをまとめた(3)では、酒造好適米品種の特性の一つである心白粒について取り上げます。
 (3) 登熟期間の平均気温と心白率との関係
 大吟醸酒の原料米、いわゆる酒造好適米と呼ばれる品種の特性の一つが粒に心白(しんぱく)が発現していることです。心白部は、米の中央部に集積するデンプンの接合が緩いため間隙が生じ、この空隙によって光の屈折や乱反射が起こり白色不透明になります。心白部分は組織が柔らかいため、麹菌が内部まで入り込み、デンプンを効率よく糖類に変えられるほか、吸水性や醪(もろみ)の溶解性が良好になると言われています。心白は粒の中央に線状に鮮明に入っているのが良いとされ、大きすぎたり、腹側に流れる粒は精米時に砕け米になりやすくかえって欠点とされます。
 心白の発現は、遺伝的な要因に支配され、品種による差が最も大きいようですが、気温や日照などの気象条件、施肥法などの栽培条件によっても影響されます。事実、アスク試験田は毎年同一の耕種法で栽培していますが、心白の調査をすると、同一品種であっても発現の程度は栽培年で大きく異なります。その主な要因が出穂後の気象経過、とくに気温による影響と推察されます。
 そこで、平成17年から25年まで、登熟期間(出穂~刈り取りまで)の平均気温と心白発現との関係を酒造好適米品種「酒未来」についてまとめてみました。なお、心白粒の調査は目視ではなく酒米品質判別器(静岡製機)で行い、気温は山形気象台の観測値を用いました。
 出穂後の日数別に平均気温と心白率との関係を示したのが右上の図です。これによれば、出穂後10日間あるいは20日間では両者の関係ははっきりしませんが、30日間と40日間ではその関係は明瞭になります。つまり、心白率は出穂から成熟までの40日間の平均気温が高いほど高まる傾向にあると言えます。
 さらに、図中の点のチラバリに統計的手法で2本の折れ線を書き入れてみましょう。すると、気温24.9℃(折曲点)までは心白率22%とほぼ一定ですが、それ以上に高くなると気温に比例して心白率は高まることがわかります。
 それでは登熟期間の気温が高い、いわゆる猛暑年の酒米は心白率が高く品質良と言えるだろうか?。「酒未来」の心白は粒の腹側に流れる特性を持っています。このため、心白率30%以上にもなると玄米外観は乳白米のように見えます。品質は必ずしも良好とは言えません。このことから、心白率はほどほどの20~25%あたりが望ましいと考えています。それを確保するには、出穂後40日間の平均気温は23~25℃で経過することが一つの条件になるでしょう。
 以上の結果は、金山町の「出羽燦々」でもほぼ同様で、出穂後40日間の平均気温が20~25℃の範囲では気温が高いほど心白率は高まるという一次直線的関係がみられます(図右下)。
 もちろん、心白の発現は登熟期間の平均気温のみで決定されるほど単純ではありません。品種の遺伝的な要素と、玄米の大きさ、モミ数の多少、気温の日較差などなどが複雑に絡み合って形成されます。しかし、アスク試験田と金山町という気象・土壌などの栽培環境が異なる場でほぼ同傾向が得られたことは、心白の発現が稲の稔る全期間にわたって気温と強く関係することを示したものと考えています。このわずかな知見が酒造好適米品種の品質向上に役立てば幸いです。

2014年2月12日 13:12