酒造好適米新品種の誕生をめざす(4)

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雪の花を車窓に(つばさ123号:霞城公園にて)

寒さは折り返し点を過ぎ、日脚も一日一日長くなり、春が近づいてきたことを感じるこの頃です。さあ、本年アスク試験田に作付する種子準備をしなければと思っています。
その中には、アスクが開発をめざす酒造好適米の新品種の育成材料も含まれています。幻の酒米と呼ばれている「愛山」の鮮美な心白と、高木酒造14代の原料米「龍の落とし子」の早生の特性をもつ新品種の誕生をめざし、平成18年「(愛山/山酒4号)F1」を母、「龍の落とし子」を父に交配し、育て上げてきたF8世代です。
誕生までまだまだクリアしなければならない難問が待ち受けていますが、24年産F7世代(下表の生検2)の調査結果の概要を紹介しましょう。
生検2の調査結果.jpg
DSCN4795.JPG 生検2はF7世代の仮名で、5つの系統から構成され、それらの種子を混合したものです。5系統の特性を系統ごとに調査した結果では、稈の長さ、穂の長さ、玄米の粒の大きさ、心白の大きさと入り具合、そして、出穂期、脱粒性の難易など、諸特性にはほとんど差異はみられませんでした。このことから、F7世代で、実用的にはほとんど固定したと考えられました。
生検2の成育、収量、品質を「美山錦」と「出羽燦々」と比較してみましょう。出穂期は、「龍の落とし子」の血を引き早生ですが、稈の長さは短く、穂の数は多い「短稈・穂数型」の草型です。「長稈・穂重型」の草型を示す「龍の落とし子」とは相反する形態です。ただし、稈は短いといっても、「はえぬき」のように止葉が直立しガッチリしたタイプではなく、生検2の止葉は「山酒4号」のようになびき、稈質は柔らかく倒伏にはやや弱いようです。
玄米の品質では、千粒重は28g台で、「愛山」・「山酒4号」の血を引き大粒です。心白率は「出羽燦々」より明らかに高いのですが、心白は「愛山」のように真ん中に鮮やかに入るのでなく、「山酒4号」に似て腹側に流れる粒が多いようです。タンパク質含有率は、やや高めでしたが、F6世代では低い値を示しています。
以上のデータは、平たん部で、それも高温条件の下での稔りであり、早生の生検2にとって、F6~F7世代の2か年は過酷であったかもしれません。早生の特性を生かせる山間部や中山間部で試作し、その適応地を確認する必要があります。
両親のすぐれた特性のみを取り入れた”いいとこどり”、そんな品種の誕生を夢みて育成を進めてきましたが、実現化までは紆余曲折の道、目的地に向かって疾走する「つばさ」のようには行かないようです。



 

2013年2月 7日 13:51