アスク試験田のスタートにあたって思う

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 明の時節というのに、山形の空は強い風に見舞われています。育苗やブドウ園のハウス被害が心配されます。
 山形市前明石の平吹正直君宅では、晴れ間がのぞいた4月2日、塩水選を行いました。酒造好適米品種「羽州誉」・「龍の落とし子」・「酒未来」・「改良信交」の作付けの種子です。種子生産用ですから、他品種とは一粒も混ざらないよう気を使っての作業、アスク試験田の今年の米づくりスタートです。
 正直君の子供たちが春休みということもあって、息子「陸」君、妹の「真菜」ちゃんが手伝ってくれました。平吹家三代の家族が一緒になって、塩水に浮かぶモミを掬いながら、良いタネを選ぶことの大切さを祖父や祖母が孫たちに教えながらの、いつものほほえましい情景です。
 塩水選は、良く充実したタネを選ぶという、米づくりにとって基本的な技術の一つです。わが国の農業技術のうち、最も長命で、最も広く普及している技術とも言われています。明治15年、福岡県勧業試験場長であった横井時敬によって考案され、福岡県農業総合試験場には、「塩水選種法記念碑」が建立されているほどです。
 当時、風選や水選に代え、塩水を用い充実した種子だけを比重選するこの方法は、「英国サイレンスタア農学校の教師チヤアチ氏の(小麦に関する)試験説」にヒントを得た、泰西農学導入の成果第1号の技術でした(年をみつめ21世紀を考える:     文協)。
 選種法は親から子へ、子から孫へと130年も引き継がれてきた技術です。これが今、忘れ去られようとしています。種子の調製が高度機械化し、充実したタネの精選は塩水選を必要としないまでに向上したからです。恰も、田植機の出現で、東北地方の米の増産に大きく貢献した保温折衷苗代が消えたように。
 米づくりにとって不易であると思われ、早春の風物詩でもあった塩水選種法、やがては山形の米づくりから姿を消すのでないか、一抹の寂しさを感じながらの作業でした。 

2012年4月 4日 13:34