酒造好適米新品種の誕生をめざす(3)

試験田24.3.JPGのサムネール画像 三寒四温、雪解けは急速に進んでいるとはいえ、山形県内の残雪は例年の倍近くもあります。3月15日のアメダスによれば、大蔵村肘折360cm(平年256㎝)、西川町大井沢280cm(196)、尾 花沢市180cm(72)、金山町120cm(74)、山形市42cm(7)となっています。
 アスク試験田にも長靴が埋まるほどの雪が残っていますが、本年の作付に向けての種子の準備は進められています。龍の落とし子、羽州誉、山酒4号、酒未来、改良信交、京の華、酒の華などの酒造好適米品種の原原種用の種子が主ですが、中には、夢のある種子もあります。平成18年に(愛山/山酒4号)F1を母、龍の落とし子を父として交配し育ててきた子供、F7世代です。品種の誕生まで、まだまだクリアしなければならない難問が待ち受けていますが、その概要を紹介しましょう。   

生検2(平23)特性.jpg 23年に試験したF6世代の特性が上の表です生検2玄米.JPGのサムネール画像
。表中の生検2は、F6世代の仮の名で、5人の姉妹で構成され、それぞれの種子を一緒にしたものです。姉妹は系統と呼ばれています。5系統の特性を系統ごとに調査した結果では、稈の長さ、穂の長さと形、粒の形と大きさ、心白の大きさなどの形態的特性は類似し、ほとんど見分けはつきませんでした。目についた違いがひとつ、出穂期です。出穂期は育成の当初から厳密にチェックしてきたのですが、23年の結果では、5系統はいずれも早生群ですが、それでも系統間には7月27日から30日までの違いがみられました。出穂期はまだ固定していなかったのです。その要因は、早生の「龍の落とし子」と極晩生の「愛山」の組み合わせであること、22年が猛暑であったことから出穂期が品種の早晩生を問わず一斉になったため、その違いが判然としなかったためなどが考えられます。出穂期に違いがあるということは、その固定のために結果としては誕生が遅れるということを意味します。頭で思い描いたようにはいかないものです。
 上の表の成績に戻ってください。出穂期以外の特性はほぼ同一の5系統から構成される生検2の成育・収量・品質を美山錦、出羽燦々と比較すると、出穂期は美山錦並みの早生、稈長は短く、穂数は多い、短稈・穂数の草型です。ただし、短稈とはいっても、「はえぬき」のように止葉が直立しガッチリとした「穂がくれ」のタイプではなく、生検2の止葉はなびき、山酒4号のような、柔らかい感じのするタイプです。
 千粒重は28g台で出羽燦々よりは大粒です。心白率は明らかに高い半面、心白の入りは愛山と同様に眼状型が多いようです(写真)。玄米のタンパク質含有量は低めです。
 生検2の以上の特性から見て、大粒であることから2.1mmのふるい目で調整することで品質の向上が期待されます。また、早生であることから、県内の中山間地帯に適応するのでないかと考えられます。ただし、耐冷性と耐病性は未検定ですが。
 本年は、F7世代として、出穂期をチェックするとともに、醸造特性をも調査する予定です。品種誕生という「夢」の実現をめざし、遅い雪解けを待ちながら、あせらずに、あぜ道を歩き回ります。                                
 

2012年3月16日 10:53