まぼろしの酒造好適米「京の華」

お盆が過ぎてから山形にも夏らしい天気が、と喜んでいましたが、ここ数日は秋のような日が続いています。稲の稔りも遅れることが心配されます。
さて、アスクの試験圃場ではひときわ目立つ品種が生育しています。まぼろしの酒造好適米「京の華」です。
「京の華」は、山形県西田川郡京田村(現鶴岡市)の篤農家、工藤吉郎兵衛が大正15年に「酒の華」と「新山田穂」を交配したものから、昭和6年頃に育成したとされています(菅 洋:水稲民間育種の研究)。
「京の華」は酒造に適していたことから、山形県のみならず福島県会津地方で多く栽培されました。でも、栽培が難しい上に生産性が低いため、昭和30年代には姿を消し、まさに幻と化していたのです。
昭和59年、姿を消して30年後、「京の華」は辰泉酒造(福島県会津若松市)によって「執念の復活」(河北新報)を成し遂げました。現在では、山形県の数社の蔵でも美味しい酒を醸しています。
しかし「京の華」の特性は、と改めて問われれば、おそらく誰も明確には答えられないでしょう。80年も前に「京の華」を栽培し、また見て触れたことのある人に聞かないことには。
唯一、「京の華」の特性を記したのが山形県農事試験場のデータです。昭和6年の酒造米用品種比較試験のデータによれば、「京ノ華」の特性は
出穂期:8月8日  稈長:3.44尺(103cm)  芒:無  ?先色:黄白
心白歩合:65%  百粒重:2.60瓦(g)
となっています。
ところがアスクが入手した「京の華」の種子からは、稈長、出穂期、心白歩合などの農事試験場のデータとは異なる株が出現したのです。おそらく長年にわたって自家採種を繰り返してきたために、自然交配・突然変異・異品種の機械的混入などで、種子が雑多になってきたのではないかと考えられました。
そこで、アスクでは5年前に、1本植えした多数の株の中から「京の華」の特性をもつであろうとみられる株を選抜しました(2次選抜)。この株の系統栽培を繰り返すことで、80年前の「京の華」が誕生しています。
機会がありましたら、たんぼで生育する「京の華」をご覧になってください。80年前の米に会うことができます。

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2009年8月31日 12:08