幻の酒米"愛山"を田植え

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苗を一株に一本ずつ田植え(6月14日)  前列右から4人目が松本さん

幻の酒米とも呼ばれている”愛山”、醸す芳醇な味わいは愛飲家の垂涎の的と言っても過言ではないでしょう。その愛山を、アスク社員が兵庫県小野市松本栄一さんの田んぼで田植えをしました。山形の米屋が何で兵庫県にまで出向いて田植えを?と思うでしょう。
愛山は1941年(昭16)、兵庫県立農事試験場酒米試験地(当時)にて、「愛船117」を母(種子親)、「山雄67」を父(花粉親)として誕生、愛山11号の系統名で特性調査が行われました。しかし、収量は高いものの品質がやや不良との理由で、1951年に試験は打ち切られてしまいます。育種の世界からは消えてしまったのです。
その後、愛山11号は酒米試験地の地元加東郡社町(当時)の農家が灘五郷の酒造メーカとの契約栽培の下で、”愛山”の品種名で復活します。種子は、酒米試験地が純系淘汰で増殖、地元JAの採種圃から生産者へと供給されています(池上 勝;兵庫県農林水産技術総合センター研究報告第54号)。
愛山は全国の名だたる蔵元の注目するところとなり、作付は次第に増加しています。兵庫県の醸造用玄米の産地銘柄に指定され、平成24年産の検査数量は、山田錦・五百万石・兵庫夢錦(以上は兵庫県奨励品種)に次いで423トンにも上っています。

閑話休題:さて、これほどまでに増えた愛山ですが、前述した契約栽培以外の産地での採種体系はどうなっているのだろうか?。気になります。もし、生産者が個別に自家採種に依っているとすれば、愛山の特性は少しずつ変異していないだろうか?。愛山を取り扱うアスクとしてはそこを確認する必要があります。アスクはこれまでにも、京の華・酒の華などの復古品種、奨励品種から除外された改良信交・キヨニシキ・はなの舞・雪化粧、さらに羽州誉・龍の落とし子・酒未来・山酒4号(玉苗)などの民間育種品種の種子確保に努めてきました。その経験を生かし、今、出回っている愛山の特性を調査してみよう。これが兵庫県で田植えをした顛末です。
山形と兵庫、苗、作業着、田植用長靴、それに田植用紐など一式を背負って新幹線に乗り込み、ほぼ一日がかり。田んぼに着くやすぐに田植え開始です。夕方近くなったとはいえ、山形よりは強い日差しの下で汗びっしょりながら、苗一本一本を600株ほど植えました。一本ずつ植えたのは、変異を確認するためです。
苗は順調に成育すれば9月初めには出穂し、10月中旬には刈り取りを迎えるでしょう。その間、愛山の厳正な種子を確保するための調査が行われます。山形から現地の田んぼまで通い、一株一株を目で見て、手で触って確かめる、その地道な取り組みは欠かせません。ここでもっとも手ごわいのが台風です。襲来しないことを願いながら出来秋を楽しみにしています。

 

2013年6月17日 11:02