「うまい米を育む」Ⅳ 匠の技

DSC_0886.JPG           匠の技が育む稲穂が広がる真夏の庄内平野 

4 うまい米を育む匠の技

 天性の旨いこめ「つや姫」とて「玉磨かざれば光なし」、匠の技があって、はじめて豊かに実り、旨さにさらに磨きがかかる。ごはんの旨さに関係するのが米に含まれるタンパク質含量の多少である。一般に、米のタンパク質含量が多いと、ごはんは粘りがなく硬く感じる。これはタンパク質のひとつプロラミンが多いために水が粒の中までしっかり入らずふっくらと炊けないからという。
  タンパク質含量は品種の特性よりは栽培方法、すなわち稲の育て方と深く関係し、中でも、窒素肥料の施用法の影響が強い。窒素肥料は、通常、元肥と穂肥と呼ばれる追肥の2回に分けて施用されるが、タンパク質含量を左右するのが穂肥である。このため、匠は米づくりの数多い技のなかでも穂肥に最も腐心する。
  穂肥は茎の根元に幼穂が生まれる7月中旬に施用する。適切に施用することで収量、品質そして食味向上に結び付く一石三鳥の優れもの。米づくり技術ではもっとも重要なものだ。穂肥の施用は生育状況、気象条件、土壌条件などが複雑に絡み合って、毎年同一ではない。生育がどう推移するかの予測も必要である。匠は、目の前に青々と広がる稲をわが子を慈しむかのようにじっと観察する。田んぼに入って、草の長さ、茎の数、葉っぱの色の濃さ、産毛に包まれた幼穂を調べる。そしてこれまで培ってきたノウハウと経験から穂肥の時期と量を決める。旨いこめを育む匠の技が発揮される時だ。
  真夏、天候を気にしながら田んぼを見回り、稲を労わる日々が続く。出穂、黄色の小花が受精し、やがて稲穂は黄金色に染まる。穂肥が功を奏し、確かな出来秋にこれまでの苦労が報われ、おもわず日焼けした顔がほころぶ。
  匠の技は、代々受け継がれてきたもの、自ら創出したものなど多様である。しかし、これらの技は今後進展する大規模稲作経営では、耕作する圃場数が多いため受け入れるのは容易ではない。そこで注目されているのがICT(情報通信技術)である。リモートセンシングによる一枚一枚の田んぼの生育状況、水管理、気象、土壌などのデータ、そして匠の技が数値化され、それらの情報はスマートフォンから得ることができるであろう。匠が営々と築き上げてきた旨いこめづくり、今、新たな展開を迎えようとしている。

 

2020年4月21日 13:23