インドハリアナ州のあぜ道から(20)

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カイタル農家の水苗代              種苗会社の水苗代

 カイタルの田植を控えた水苗代は湛水されていない。農家に聞くと、播種と苗取り時には湛水するがその時以外は湛水しない。 冬作の苗づくりは温かい地下水で保温することが必須条件と思っていたが、現地の苗づくりでは湛水すると苗の生育に障害が出るという。
 一般に、水苗代の水管理は、出芽時に芽干しといって一時落水するが、その後は湛水と落水を繰り返す。低温時には湛水して苗を保温する。西ベンガル州の苗代は湛水されていた。後述するデヘラドンの棚田の農家も苗代は湛水と落水を繰り返すと語る。ハリアナ州ではなぜ苗代に水をいれないのか?。塩害と関係するのだろうか?。
長くなるが次の文献を引用する。
 ★池橋 宏 :インド・スリランカの稲作(農業及び園芸62巻)
「インド北西部ハリアナ、パンジャブ州の一帯は年間の降雨量が500mm位の乾燥地帯であり、灌漑がなければ土壌中の塩類が表面に蓄積する塩害地帯である。この地方は、元来小麦を主食とする地方である。ところがヒマラヤを水源とする灌漑網は独立後目覚ましく発展し、インドではもっとも多収の稲作地帯となった。乾燥地帯の塩害地でも、石膏を施用して土壌塩類を矯正し、高PH条件で不溶性となる亜鉛を補給して(硫酸亜鉛25kg/ha)灌漑すると次の年から立派な水田となる。・・・・・・内陸部のアルカリ土壌地帯の塩害の発生には水の滞留と密接な関係があり、雨の多い年にはかえって塩害が多発する。もっとも広く分布しているのがリン酸欠乏である。乾燥地帯の新興の灌漑稲作地帯では、高PH条件で、リン酸はcaと結合されるので制限因子となる。亜鉛欠乏対策も必要である。」
 ★北村裕道 :インド農業における水事情と課題について(ARDEC 38号 2008年)
「インド農業にとって灌漑は大きな役割を果たしているが、その主流となっているのが地下灌漑である。緑の革命が始まった当初は地表水を使った灌漑が中心であったが、現在、地下水灌漑が全灌漑免責の半分以上を占める。地下水灌漑が急速に普及したしたのは大規模灌漑事業がなかなか進まないことに比べ、地下水灌漑が投資額が少なく、個々の農民が積極的な導入を図ったことによる。・・・・・・この結果として、水資源に乏しい半乾燥地域での過剰揚水、地下水枯渇という事態が発生し、農業生産に深刻な影響を与えつつある。」
 ★草野拓司 :近年のインド農業の動向(カントリーレポート 第7号 農林水産政策研究所)
「コメの主産地であったパンジャブ州やハリヤナ州での地下水低下や塩害の問題から、インド政府は、他地域における増産の可能性を探っている。特に注目されているのがインド東部のビハール州、チャッティ-スガル州、ジャールカンド州、ウッタル・プラーデ-シュ州、西ベンガル州・・・・・・」
 ★藤田幸一 :インドにおける農政・貿易政策決定メカニズム(京都大学東南アジア研究センター)
「地下水の枯渇について若干敷衍するならば、パンジャーブ州の灌漑の75%は地下水に依存している。地下水の過剰な汲み上げにより、地下水は緩やかながら着実に低下しており、より深い地下水のくみ上げになっている。パンジャーブ州では一般に、地下水位が450フイート(135m)以下に低下すれば、塩分濃度の高い地下水となり、農業には適しなくなる。したがって、灌漑に適した地下水の枯渇は、思ったより早くやってくるかもしれない。この問題は、特に要水量の多い稲作において深刻であり、・・・・」。

 
 カイタルの米生産者の地下水の深さは200~700メートルにも達するという。そして、生産者との打ち合わせの中で、現地の指導者サトパル氏からは衝撃的な発言が。「ハリアナ州は冬期間の地下水のくみ上げ禁止を半月前(5月下旬頃)に決定した」 。この一言でカイタルでの冬作は事実上不可能になった。

2018年7月17日 12:16